ヒトの発生は少しややこしい
ヒトの発生のややこしさは体腔の多さであろう。どの段階で何の体腔ができて、またそれが何に分化していくのかというイメージを捉えなければ、字面だけ追っていても理解が難しい。そこで本題に入る前に、次の動画を視聴していただければ、文章も読みやすくなると思う。
卵割
受精卵が2細胞期に達すると、細胞分裂が連続的に起き、細胞が小さくなっていく。この細胞分裂の卵割と呼び、そのようにしてできた細胞を割球と呼ぶ。割球は8細胞期までは緩やかに結合しているが、次第に割球同士の結合が強くなり、ボール状の状態になる。この過程をコンパクションと呼ぶ。
コンパクションを起こした受精卵は16細胞期以後は桑実胚となる。桑実胚の内部には内細胞塊が現れ、その周囲を囲む細胞は外細胞塊と呼ばれる。内細胞塊からは胚子の組織が分化し、一方、外細胞塊からは胎盤の形成に関係する栄養膜が分化する。
胚盤胞の形成
桑実胚の内部には空洞が生じており、そこに液が満たされ、また細胞間隙も融合されて1つの腔が生じる。この腔を胞胚腔と呼ぶ。また、胞胚腔を持つ胚を胚盤胞と呼ぶ。内部の細胞塊は胚結節と呼ばれ、外細胞塊は栄養膜を形成する。透明膜はこの時点では消失しており、着床可能な状態となっている。
栄養膜の細胞は発生6日目に子宮粘膜の上皮細胞に侵入し、着床を始める。
着床
子宮は3層の組織、子宮内膜、子宮筋層、子宮外膜からなることが知られている。子宮内膜はホルモン作用によって変化し、卵胞期、増殖期、分泌期、妊娠前期、月経期の5つのステージを辿る。増殖期はエストロゲンの影響下にあり、分泌期は黄体から分泌されるプロゲステロンに影響される。受精がされなければ、プロゲステロンの分泌量が減少し、月経期に突入する。着床時には子宮は分泌期にある。
子宮内膜は緻密層、海綿層、基底層に分類することができる。月経期が始まると、緻密層と海綿層の組織が血液の流出と共に脱落し、基底層のみとなる。
発生第8日目
胚盤胞は子宮内膜に埋没する。また、栄養膜は2層に分化し、栄養膜細胞層と栄養膜合胞体層を形成する。栄養膜細胞層の細胞が細胞分裂し、遊走して栄養膜合胞層を形成している。
内細胞塊であった胚結節も2層に分化する。胚盤葉下層と胚盤葉上層である。両者合わせて二層性胚盤と呼ぶ。
胚盤葉上層内には、小さな腔が出現し、大きくなって羊膜腔となる。この腔を取り囲むようにして胚盤葉上層の細胞の一部が羊膜芽細胞となる(下画像第8日参照)。
発生9日目
胚盤胞は子宮内膜にさらに深く埋まる。侵入した際に生じた穴は繊維素(フィブリン)凝塊と呼ばれる繊維状物質で閉鎖される。この時期には栄養膜の発達が進む。また栄養膜合胞体層には多数の腔が出現し、それぞれが融合しておおきな裂孔となる。そのため、この時期は裂孔期と呼ぶ。
また、栄養膜の内側では胚盤葉下層から分化した胚外体腔膜(ヒューザー膜)が形成され、胚盤胞腔の内側を覆う。胚盤胞腔はこの時点では原始胚外体腔(原始卵黄嚢)と呼ばれる。
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ここまでの様子を動画で確認してみよう。
発生11~12日目
胚盤胞は完全に子宮内膜に埋没する。
栄養膜合胞体層の細胞は、子宮内膜に深く侵入し、母体側の毛細血管の内皮を侵食する。この毛細血管は拡張し、シヌソイド(洞様血管)と呼ばれる。合胞体層の裂孔は、シヌソイドと連続して血液が裂孔に流れ込むようになる。こうして、子宮胎盤循環が形成される。
また、栄養膜の内面と原始卵黄嚢の外面(つまり栄養膜と原始卵黄嚢の間)に胚外中胚葉が形成される。この中胚葉の間にも腔が生じ、それを胚外体腔(絨毛膜腔)が形成される。卵黄嚢を覆う中胚葉を胚外臓側中胚葉、栄養膜細胞を覆う中央胚を胚外壁側中胚葉と呼ぶ。
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発生13日目
栄養膜の裂孔に流れ込んだ血液が漏れ、出血することがある。この出血が月経のものと勘違いされやすい。
栄養膜の細胞は絨毛構造を作り出す。これを一次絨毛と呼ぶ。
胚盤葉下層は細胞分裂し、原始胚外体腔内にさらに新しい腔を形成する。これを二次卵黄嚢と呼ぶ。原始胚外体腔は二次卵黄嚢形成中に大部分が除去され、胚外体腔嚢胞となる。
胚外体腔は拡大していき、絨毛膜腔と呼ばれる大きな腔を形成する。胚外中胚葉は栄養膜細胞膜の内面を覆い、絨毛膜板となる。胚外中胚葉は、胚と栄養膜を一部で連結させており、これを付着茎と呼ぶ。付着茎はのちに臍帯となる。
胚盤葉下層の頭の領域が微かに熱くなり、脊索前板が形成される。
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ここまでの過程を動画でおさらいしてみよう。