ヘッケルの発生反復説とは
ヘッケルは動物の発生過程において、生物が辿った進化の道筋(系統発生)が再現される(「個体発生は系統発生を繰り返す」)ことを提唱しました。これを発生反復説と呼びます。
例えば、ヒトの発生過程においては、尾やえらに相当する器官を観察することができます。
また、ニワトリの胚では、発生過程において、窒素排出物がアンモニア⇒尿素⇒尿酸へと変化していきます。これも発生過程において「進化の道筋が再現された」と捉えることもできるでしょう。
しかし、ヒトのえらのような器官は実際にはえらとしての機能を果たしていません。えらの原基に相当する器官です。そのため、「魚に似ている」のではなく、「魚の胚」に似ていると言えます。また、魚の卵は盤割であり、ヒトの卵は全割で子宮への着床を行います。このような進化上の大変化による新しい形質が、発生の初期に表れることは、「進化の道筋が再現される」とする発生反復説では説明することができません。
また、ヘッケル自身が発生反復説を重視するあまりに、自説に合わない観察事例を例外として軽視するなどの姿勢が批判の的となりました。また、図を歪曲したり、進化の中間型として発表した微生物が偽物だったりと、信頼を損なうようなこともしています。
ベーアの法則
ベーアは「個体発生は系統発生の反復はしないが、発生の初期ほど進化的により古い形質が現れる傾向にある」とし、動物の一般的な特徴は発生の初期に現れることを提唱しました。
例えば、脊椎動物の場合、その動物群を特徴づける脳やせき髄は、特殊化した特徴である「毛」、「羽」、「うろこ」よりも早く現れます。発生初期には一般的な特徴(例:脳やせき髄)が現れるため、その結果、脊椎動物の胚は発生初期では似たものとなります。
発生反復説とベーアの法則の違い
発生反復説では「進化の道筋が再現される」としていますが、ベーアの法則ではその点は否定しています。
ベーアの法則は、「基本的な性質は、特殊化した性質よりも発生の早い段階で現れる」とし、発生初期段階で胚が似ていることを説明しています。