結合の極性と電気陰性度
H2のように同種の原子からなる分子は、お互いに電子を引きあう力が等しく、共有電子対を均等に分布しています。このような分子を無極性分子と呼びます。
一方、電子を引きあう力が違う原子同士が共有結合を結ぶと、共有電子対の分布に偏りが生じます。例えば、HClは、共有電子対は陰性（電子を引く力）が強いCl原子に引き寄せられ、Cl原子は負の電荷δ－（デルタマイナス）を帯びています。一方、H原子は正の電荷δ＋を帯びます。このような電荷の偏りがある分子を極性分子と呼びます。また、このように共有結合において、電荷の偏りが生じる現象を分極と呼びます。
単純に、違う原子同士ならば極性分子となるわけではなく、複数の極性がお互いを打ち消し合って無極性分子となることもあります。
電気陰性度とは？
共有結合において、それぞれの原子が共有電子対を引き寄せる力を電気陰性度と呼びます。一般的に、周期表の右上側にいくほど電気陰性度が高いです。希ガスは、共有結合を結ばないため、電気陰性度はありません。
電気陰性度には、一般的に次のような規則があります。
同一周期では原子番号が大きいほど値が高い。
ハロゲン元素では、原子半径の小さいフッ素が最も値が高い。
これは、同一周期では原子番号が大きくなるにつれて、原子核の有効核電荷（最外殻電子に働く核の正電荷）が、大きくなるためです。また、原子半径が小さいほど、原子核が電子を引き寄せる力が強いため、ハロゲン元素では電気陰性度はフッ素が最大となります。
電気陰性度の求め方
アメリカのポーリングは原子間の結合エネルギーの大きさに基づき、各原子の結合エネルギーを比較することによって求める方法を提案しました。
例えば、分子ABの結合エネルギーは、分子AAや分子BBの結合エネルギーよりも大きな値となります。これは、A－A間、B－B間では単に共有結合を切り離すエネルギーのみが必要とされますが、A－B間生じている極性（静電気力）の分のエネルギーも加算されるためです。A・Bの電気陰性度の差が大きいほど、その結合エネルギーも大きくなります。
ポーリングは、水素の電気陰性度を2.1と定めて、それぞれの原子の電気陰性度を求めました。
分子の極性
先ほども述べた通り、結合の極性があったとしても、複数の極性がお互いを打ち消し合って無極性分子となることもあります。例えば、CO2は次のような構造式をしています。
O=C間では極性が生じていますが、両方向に極性が生じているため、お互いに打ち消し合い、CO2は無極性分子となっています。
極性の有無は、正電荷の重心と負電荷の重心が一致するかどうかを調べれば求めることができます。視覚的には、「→」（ベクトル）を書き、その大きさを双極子モーメントで表せば、すぐに理解できます。
O=C=C
← →
上図ではお互いに逆向きのベクトルが打ち消しあっているため、双極子モーメントはありません。
双極子モーメントとは？
分子全体の極性は、それぞれの極性のベクトルの和によって表れます。この和のことを双極子モーメントと呼びます。双極子モーメント＝分子全体の極性＝分極のベクトルの和と考えて構いません。
なぜ水分子は極性があるの？
CO2は180゜の結合角ですが、H2Oの結合は折れ線の形をしています。そのため、極性が打ち消されることがなく、極性を示します。
なぜアンモニア分子には極性があるの？
アンモニア分子NH3は三角錐形をしており、負電荷の重心はN原子に存在するため、極性分子となります。
無極性分子は電子レンジで温まらないのはなぜ？
水分子などの極性分子は電子レンジで温めることができますが、無極性分子は温度があまり上がりません。電子レンジは電磁波を発生させますが、この電場の変化により、極性を持つ分子は激しく振動・回転します（温度上昇）。しかし、無極性分子は、電場が変化しても影響を受けづらいため、温度はあまり上がりません。
極性引力と沸点
極性分子にはお互いに引きあう力（＋と－の静電気力）があり、この引力を極性引力と呼びます。そのため、一般的に、極性を持つ物質の方が沸点が高いです。
極性分子と液晶
液晶とは、固体（結晶）と液体の中間の状態をとっているもののことを指します。その分子の配列が結晶ほど完全ではなく、運動性を持つことが特徴です。液晶となる物質の殆どは有機化合物で、細長い極性分子です。
液晶となる分子に通電すると、極性分子のため、分子が電極に沿って並びます。この時、光がとおりやすくなり明るく見えます。しかし、通電しないと分子がバラバラの状態となり、光が通りません。その原理を利用して、パソコンや液晶テレビで利用されています。
