酸・塩基の価数とは?
酸や塩基が出すH+やOH–の数を価数と呼びます。2価以上の酸・塩基を多価の酸・塩基と呼びます。
多段階電離とは?
硫酸やリン酸のように、多価の酸を水に溶かすと、段階的にH+が放出されます。これを多段階電離と呼びます。第一段の電離が最も起こりやすく、第二段以後の電離は起こりにくくなります。
どうして第二段以後の電離は起こりづらいの?
例えば、H2SO4では第二段目の電離はHSO4–という陰イオンからH+(陽イオン)を放出しなければなりません。陰イオンと陽イオンとの間に静電気的な力が働き、H+の電離を妨げるように作用します。しかし、薄いH2SO4の水溶液では、第二段の電離もほぼ完全に行われます。
しかし、一方、中程度の強さであるリン酸H3PO4は、第二段、第三段の電離は殆ど行われていません。
塩基の場合には、イオン結合であるため、多段階の電離は起きずに、水に溶けたものは陽イオンと陰イオンに一気に分かれます。
酸・塩基の強弱は電離度で決定する
酸の強さは価数の多さではなく、水素イオンの濃度によって決定します。例えば、HClは殆ど電離していますが、CH3COOHは僅かにしか電離していません。
一般に、酸や塩基のような電解質が水に溶けた時、電離して生じたイオンと電離していない物質との間には電離平衡が成り立ちます。全体のどれくらいの割合が電離したかを示す値を電離度αと呼びます。
電離度α = 電離した電解質の物質量 / 溶解した電解質の物質量
例えば、酢酸の場合、次のような濃度変化があったとします。
CH3COOH | CH3COO– | H+ | |
平衡前 | 0.1 mol/l | 0 mol/l | 0 mol/l |
平衡時 | 0.1 – 0.0016 mol | 0.0016 mol/l | 0.0016 mol/l |
よって、電離度αは次のようになります。
α = 0.0016 / 0.1 = 0.016
電離度が1に近い酸・塩基を強酸・強塩基と呼び、電離度が1よりも著しく小さい酸・塩基を弱酸・弱塩基と呼びます。一般的に、水に溶ける塩基は、全て強塩基です。
なぜ強酸・強塩基の電離度は1にならないの?
実際の強酸・強塩基の電離度は、1よりもやや小さい値(0.9ほど)を示します。これは、電離して生じた陰・陽イオンの間に静電気力が働いて、イオンの動きが拘束されるためです。
なぜ弱酸・弱塩基は濃度が低くなると電離度が高くなるの?
弱酸・弱塩基は濃度が薄くなると電離度が1に近づきます。これは、水で薄めれば薄めるほど、電離平衡が電離する方向へと移動するためです。電離度は1に近づきますが、水で薄めているので、酸性・塩基性が強まるわけではありません。
氷酢酸を利用して強酸の強さを比較する
氷酢酸と硫酸を混合すると次の反応が起こり、平衡に達します。
この時、CH3COOHは塩基として働いています。水と硫酸との反応では、100%電離してしまいますが、酢酸は水よりもH+を受け取りづらいため、硫酸は100%は電離することはできません。この酢酸のH+の受け取りづらさを利用して、強酸の強さが測定され、以下のような結果となりました。
HI > H2SO4 > HBr > HCl > HNO3
電離平衡と電離定数
弱電解質の酢酸などでは、水との反応では次の平衡に達します。
これを質量作用の法則に当てはめると次のような式になります。
K = [CH3COO–][H3O+]/[CH3COOH][H2O]
H2Oは希薄水溶液中では大量にあるため、濃度変化は殆どありません。そのため、[H2O]は定数であると考えることができます。
K[H2O] = [CH3COO–][H3O+]/[CH3COOH]
K[H2O]を定数Kaとして考え、またH3O+をH+と略すと次のような式を得ることができます。
このKaを酸の電離定数と呼びます。この電離定数は温度が一定ならば、酸の濃度に関係なく一定の値となります。この電離定数は、酸の強さの指標となります。つまり、電離定数が大きいほど、[H+][A–]の積が[A]よりも大きいということなので、酸性が強いと言えます。
酸解離指数とは?
Kaの数値の逆数の常用対数をとったものを酸解離指数pKaと呼びます。
pKaの値が小さいほど強い酸と言えます。
オストワルトの希釈律とは?
C mol/lの酢酸水溶液の電離度をαとすると、平衡時には次の関係が成り立ちます。
CH3COOH | CH3COO– | H+ | |
濃度(mol/l) | C(1 – α) | Cα | Cα |
これをKaの式に代入して整理すると、次の式が得られます。
Ka = [CH3COO–][H+]/[CH3COOH]
Ka = Cα × Cα / C(1 – α) = C2α2 / C(1 – α) = Cα2 / (1 – α)
この式をオストワルトの希釈律と呼び、弱電解質の水溶液についても気体の平衡と同様に質量作用の法則が適用できることを示しました。強電解質の水溶液では、この関係は成立しません。
Ka = Cα2 / (1 – α)
Cα2 – Ka(1 – α) = 0
弱酸の場合、電離度は非常に小さな値であるから(酢酸の電離度は0.016)、1 – α ≒ 1と近似することができます。そのため、次の式が成立します。
また、水素イオンの濃度はCαであるから次の式で求めることができます。
また、弱塩基にも同様に電離定数Kbが成立します。K[H2O]= Kbとします。