遺伝子の選択的発現
多細胞生物はそれぞれの細胞の機能が分化しており、細胞ごとに異なる遺伝子を発現している。これを遺伝子の選択的発現と呼ぶ。例えば、発達中の赤血球ではヘモグロビン遺伝子が、眼の水晶体ではクリスタリン遺伝子が、膵臓の細胞ではインスリン遺伝子が特異的に発現している。また、細胞機能維持のために共通して必要なrRNA遺伝子などは、どの細胞でも発現している。
パフと遺伝子選択的発現
パフとはハエや蚊の幼虫のだ腺で見られる巨大染色体のほどけた部分である。同位体で標的したウリジン(RNAの材料)をユスリカに注入すると、パフ周辺に集まっていることが分かった。このことから、パフではある遺伝子が発現され、mRNAが合成されていると考えられている。
パフの変化と細胞分化
キイロショウジョウバエのパフを発生の段階ごとに観察してみると、特定の時期のみ現れるパフがあることがわかった。このことは、ある発生の段階のみ発現する遺伝子があり、それにより細胞の分化が制御されていると推測できる。
パフの誘導とホルモン
エクジステロイド(変態を促すホルモン)を投与すると、ある特定の部位にパフが出現した。このことから、ホルモンには特定の遺伝子発現を促進する作用があることが推測できる。
ハウスキーピング遺伝子
一方、呼吸に関する酵素などの遺伝子はどの細胞でも発現しており、そのような生存に不可欠な遺伝子をハウスキーピング遺伝子と呼ぶ。ハウスキーピング遺伝子は常に転写され、翻訳されており、このような発現を構成的発現と呼ぶ。一方、状況に合わせた選択的な遺伝子の発現は調節的発現と呼ばれている。