パーソナリティの変化に必要な6つの条件
ロジャーズは多くのカウンセリングの経験から、クライアントのパーソナリティの変化に必要な十分な6つの条件を言語化した。以下がその条件である。
- 二人の人間が心理的な接触をもっていること
- クライアントは不一致の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安な状態にあること
- セラピストはこの関係のなかで、一致しており、統合されていること
- セラピストは、クライアントに対して無条件の肯定的な配慮を経験していること
- セラピストは、クライアントの内部的照合枠に感情移入的な理解を経験しており、そしてこの経験をクライアントに伝達するように努めていることと
- セラピストの感情移入的理解と無条件の肯定的配慮をクライアントに伝達することが、最低限達成されること
第1の条件については、自明なことなので解説は不要だろう。第2~第6について解説していく。
第2の条件 クライアントは不一致
不一致とは、ロジャーズによると次の言葉で表現されている。
「有機体の現実の体験と、その体験を表現するものとしての自己像との間に矛盾があるという意味である。」
ロジャーズはある学生の例をあげて説明する。
ある学生が学校で行われる試験について、自分の弱点が暴露されるかもしれないとの恐怖を抱いていたとする。自分の弱点が暴露されるかもしれないとの恐怖は、彼が持っている自己概念とは一致しない(知覚されていない)。彼の自己概念と、恐怖感は一致しないため、恐怖感は学校の階段を登ることが恐ろしくなるという恐怖として認識されるようになった。しかし、彼自身は、なぜ学校の階段を上れないのか、理解することはできないのである。
その人が自己の中に意識していない不一致があるとき、不安・混乱を持ちやすい。
第3の条件について セラピストは一致
これはセラピストの条件である。一致(統合)についてロジャーズは次のように述べる。
「この関係の中で彼が、自由にかつ深く自己自身であり、彼の現実の体験がその自己意識によって正確に表現される」
もちろんセラピストがあらゆる領域で自己一致することは不可能であるが、カウンセリングの場面においては必須である。これは「良い自分」であることをカウンセラーに対して強要するものではなく、「このクライアントに会うことを恐れている」との自己を認識することすら許さていれる状態である。
第4の条件 無条件の肯定
通常の人間関係とは条件つきの関係である。どんなに親しい関係であっても、ある種の条件はつきまとう。しかし、クライアント-カウンセリングの関係は、特殊な関係であり、無条件の肯定が土台となっている。無条件とは、次のような態度である。
「クライアントを分離した人間として心を配ることであり、彼に自分自身の感情をもち、自分自身の体験をもつことを許すことである」
第5の条件 内部的照合枠と感情移入的理解
内部的照合枠に感情移入的理解することについてロジャーズは次のように述べる。
「クライアントの私的な世界を、あたかも自分自身のものであるかのように感じ取り、しかもこの『あたかも……のように』という性格を失わない」
「クライアントの怒りや恐怖や混乱を、あたかも自分自身のものであるかのように感じ取り、しかも自分の怒りや恐怖や混乱がそのなかに巻き込まれないようにすること」
簡単に言うと、「死にたい」と訴える人に対して、「死ぬなんてとんでもない!親御さんが悲しむ!」という応えるのが外部的照合枠による理解である。内部的照合枠による理解とは次のような応答である。
「死んでいなくなってしまいたいとの思いを抱くほど、つらいのですね」
クライアントが何を感じているのかに焦点を当て、否定せず受けとめ理解していく。内的照合枠については「公式化されたカウンセラーの役割」を参照していただきたい。
第6の条件 クライアントへの伝達
内部的照合枠による感情移入的理解を、クライアントに伝達することである。クライアントに対して体験している受容と理解を、いかに伝えるかが重要であり、難しくもある。
6つの条件 = 質の高い人間関係
実際、上記の6つの条件を満たした人間関係とは、質の高い建設的な人間関係である。そういう意味で、ロジャーズはセラピーを専門化・特殊化したものに限定せず、後にエンカウンターなどのパーソンセンタードアプローチへと発展していく。
診断的な知識はセラピストにとって大切なものであるが、絶対条件ではないことは明かである。現に、非専門家であってもセラピスト的な働きをできる人はいる。クライアントが恐いセラピストにとっては、知識がなければ心理的安定感を持てない場合もある。しかし、自己一致が十分になされているセラピストにとっては必要条件ではない。
実際にカウンセリングが進むにつれて、見えてくるのはクライアントのみならずセラピスト側も自己の弱さにサラされて自分の弱さを見つめざるを得ない。クライアントにそのような作業を要求して、自身は安全地帯にいるというような態度は通用しない。自分の未解決問題を持っているセラピストは、技法に頼らざるを得なくなり、自分を防衛する傾向が増していく。そう考えると、技法や知識は、十分に熟練したセラピストにとっては有効に使えるが、初心者にとっては諸刃の剣となるであろう。