ちょっとディープな生物の世界

パーソナリティ変化-その基本概念と治療者の応答技法-

自己概念と経験の不一致 = 不安定

ロジャーズの理論によると、クライアントの不安定さは自己概念と経験の不一致によって生じる。経験とは、感覚的・内蔵的経験すべてを指し、個人の流動し変化するものであり、無意識に埋もれているものも含まれる。

一方、自己概念(自己構造)とは、個人がこれまでの生活で身につけた知覚された自身の概念である。これは意識化されている。

自己概念と経験は、お互いに重なり合う領域を持っており、次の3つの領域ができる。

  1. 自己概念と経験が重なり合う領域:自己の概念は感覚的・内蔵的経験によって供給される証拠と調和・一致している領域。「自分が自分である」という強い現実感を持つ。
  2. 自己概念の領域:経験が象徴化・意識化されるにあたって歪曲されており、個人自身の経験の一部として知覚されている領域。まるで他人事のように自身を眺めている感覚がそれである。
  3. 経験の領域:自己概念と矛盾対立しており、意識化が否認されるような感覚的・内蔵的経験がある。通常は意識上に登ってくることはない。

不一致・一致の例

例えば、次のような不一致が考えられよう。

「勉強が苦手であり、全体としてうまくいかない証拠の1つである。全て失敗したような感覚を持っており、人生に希望がない。」

しかし、実際にクライアントは勉強が全くできないわけではなく、部分的には理解することができる。しかし、この時点においては、そのような経験は「たまたま」と考えて、否認される。しかし、これが心理療法を通して一致に近づくと、経験として受けとめ知覚することができる。その結果、次のような認識に変化する(だろう)。

「両親は私は勉強が苦手であると思っているし、両親はそのことについて私を評価していないことを知っている。しかし、たまに勉強を理解することができ、面白さを感じることもある。」

つまり、図で見てみると次のように変化している。心理療法前は、2つの円(自己概念と経験)が重なり合うところが少ないが(下図左)、重なり合う所が増える(下図右)につれて、自身に対して前向きにより捉え直し始める。

一致を引き起こすもの = 治療者の基本的態度

ロジャーズは、パーソナリティの変化をもたらすものは「指示的」な治療ではなく、治療者の全体的な在り方や態度を土台とした心理療法であるとの考えを打ち立てている。

セラピストの3条件は自己一致、無条件の尊重、共感的理解である。自己一致とは、カウンセラーがクライアントとの関係において自由であり、自分自身であり、自己意識が正確に表現されることである。無条件の尊重とは、カウンセラーがあらゆる社会的通念や価値観からも解放されていて受容されていることである。共感的理解とは、クライアントの世界をあたかも自分自身であるかのように感じとることである。

詳しくは、カウンセラーの態度-治療者としての3条件-を参照していただきたい。

治療者の応答技法

クライアント中心療法においては、特に技法というものはないし、技法に囚われる必要はない。技法ではなく、基本的に、人間の自己実現力(自己成長力)への信頼感によるのがクライアント中心療法である。この基本概念は、形式化されることを拒む(形式化すると意味がなくなる)が、実際に治療を受けたことがある人は、カウンセラーの態度による治療がどれほどの力を持っているかは実感しているだろう。

以下にあげられる技法が、決して技術を提供するものではないが、自身が客観的に何を行っているのかを知る上では有用である。

1. 簡単な受容

クライアントの話をそのまま受けとめ聞くこと。相づちやうなずきでの応答

2. 非指示的リード

カウンセラーが理解できなかったことを、促したり、質問したりする働きかけ。

3. 内容・問題の繰り返し

クライアントの言った言葉をそのまま返すこと。知覚的な理解をしていることを示す。

4. 感情の反射

クライアントが述べる感情、動作、姿勢などから表現される感情をカウンセラーが受けとめ、それを言葉で伝える。

5. 事柄の明確化

クライアントは基本的に混乱しており、語る事柄がはっきりとわからないことがある。その場合には、共感的理解や感情の明確化は難しいため、事柄に絞って明確化する。

6. 感情の明確化

クライアントは自身の感情を言語化するとは限らない。また感情に気がついていない場合があったり、多くの感情が交錯していることもある。例えば、笑って話していながらも、ひどい悲しみが感じられることもある。しかし、クライアントが全く意識できないところまでの感情を解釈として取り上げられるのは、ただクライアントを困惑させるだけだる。カウンセラーはクライアントが受けとめられる感情を明確にしていく。

7. 「今、ここで」の気付き

過去のことではなく、「今、ここで」感じること・体験を語ることが促される。特にクライアントが否認によってありのままになれない時に働きかける。

8. 直面化

クライアントのが葛藤などを受け入れられないで回避している場合に行われる。クライアントの矛盾している行動や言動、気持ちを私的したりする。全体的な理解を必要とするため、頻繁に行われるべき技法ではないが、特に面接が行き詰まったりする時に使われる。

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