ちょっとディープな生物の世界

パーソナリティの変化-セラピー中の転移・依存・診断-

セラピストへの転移について

転移とは本来向けられるべき人に向けられる情動的内容(愛・憎しみ・依存など)が、セラピストに対して向けられる現象である。具体例を紹介したい。

① クライエントのAさんは、4歳の時、慕っていた父親が不審な死を遂げました。その父親は研究者でした。その後Aさんは、6歳の時に母親の再婚先について行き、そこで育てられますが、幼い頃なくした父親を理想化していて、父親のように知的職業につきたいと思っていました。しかし高校生の時にリストカットをおこすようになり、セラピーを受けることになったのです。初めは、セラピストに対して、恋愛感情にも似た肯定的感情をむけ、セラピストを理想化し、尊敬していました。

② ところが、Aさんは、やがて、セラピストに対して、強い攻撃を向けるようになります。面接場面でカルテを破ろうとしたり、手首を切ろうとしたり、それを止めるセラピストを殴ろうともしました。また些細なことで「私を嫌っているんでしょう?!」と責め立てるようになりました。

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上記の例の場合であると、①は父親への感情が転移したものであり、②は母親への感情が転移したものである。どちらにしても、過去の感情が「今、ここで」確かに体験されるものが転移である。

クライアント中心療法においては、クライアントのセラピストに対する情動内容は、多くの場合、「転移の性質というよりも、温和で、しかもなんらかの真実さがある性質のものである」とロジャーズは述べている。

セラピストはクライアントから発せられる自分に対する感情を理解し、受容しようと努力する。その過程を経て、クライアントはその情動的体験は自分の心の中だけで起きている現象であると認知するようになる。セラピストの受容によって、その場面における自分の感情が不適切であるものを体験的に知るためである。

セラピストへの依存について

また、セラピィにおいては依存関係に注意しなければならない。クライアント中心療法においては、クライアントの言葉や表現を尊重することによって、依存性よりも自立性を促進させることを目指している。

しかし、カウンセリングにおいてクライアントが評価され、しかもこの評価が、自分自身の理解(評価)よりも正確であるということをクライアントが実感する時、依存関係が打ち立てられる。依存は根本的にクライアント中心療法の原理に反する現象である。

クライアントへの診断について

ロジャーズはカウンセリングにおいては、診断的視点は不要としている。それは、診断という上から下への伝達がクライアントの依存性を高め、人間性(自分の行動を自分の責任で決める)を失うことが理由としてあげられる。

しかし、一方で自身が手に負えるものなのかどうかを、知識と照らし合わしながら判断する必要があることも確かである。精神病についても、カウンセリング治療を通しても改善されることが知られているが、投薬治療によって大きく改善される場合もある。カウンセリングだけが唯一の手段として固く自己を閉ざすのではなく、クライアントにとって最善の道を模索していく努力を続けなければならない。

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