遺伝子研究の歴史
かつては遺伝物質はDNAではなく、タンパク質であると考えられていた。それは、複雑な遺伝情報を4種類の塩基だけでは記述しきれないと思い込んでいたためであった(タンパク質を構成するアミノ酸は20種類である)。
しかし、肺炎双球菌を使ったグリフィスとエイブリーの実験、バクテリオファージと大腸菌を使ったハーシーとチェイスの実験によって、遺伝子物質はDNAであることが証明された。
グリフィスの実験
グリフィスは肺炎双球菌を用いて実験を行った。肺炎双球菌には病原性を持つS型菌と、非病原性であるR型菌が存在する。S型菌は菌外にカプセルを持っているのが特徴である(下画像)。
加熱殺菌したS型菌と、R型菌を混合すると、R型菌が病原性を獲得した。このことから、S型菌の遺伝物質がR型菌に移動して、R型菌を有毒化したと考えられる。このように遺伝物質導入によって形質が変化することを、形質転換と呼ぶ。
エイブリーの実験
DNA分解酵素でDNAを分解したS型菌をR型菌と混合すると、S型菌は生じなかった。一方、タンパク質分解酵素でタンパク質を分解したS型菌をR型菌と混合すると、S型菌が生じた。このことから、S型菌のDNAが形質転換を引き起こす要因となったことが考えられる。
ハーシーとチェイスの実験
ハーシーとチェイスはバクテリオファージと大腸菌を用いて実験を行った。バクテリオファージは大腸菌に感染するウィルスである。
バクテリオファージの殻タンパク質を35S(硫黄原子の同位体)で標識し、DNAを32P(リン原子の同位体)で標識した。ファージを大腸菌に感染させると、菌内でファージが増殖した。菌体内からは35Sではなく、32Pのみが検出された。
このことから、DNAが遺伝子の本体であることが明らかとなった。下画像では、赤色が同位体元素である。画像上段ではDNAに同位体Pが、下段では殻タンパク質に同位体Sが使用されている。