種子の休眠・発芽はアブシシン酸とジベレリンの作用によってなされる
種子は発芽に適した状態になるまで休眠する。休眠状態を保つのはアブシシン酸と呼ばれる植物ホルモンである。
一方、発芽を促進するのはジベレリンと呼ばれる植物ホルモンである。
アブシシン酸の働き
LEAタンパク質遺伝子を発現させ、種子を休眠させる。
LEAタンパク質
種子の休眠状態維持、乾燥耐性を持たせるタンパク質。 他のタンパク質の乾燥時における凝集を抑制する働きを持つ(参考資料https://www.jstage.jst.go.jp/)
大賀ハス
2000年前の古代ハスの種子を大賀一郎が発見し、発芽させることに成功した。この出来事は、驚異的な状態保存能力を種子が有していることを証明した。
ネムリユスリカ
LEAタンパク質は植物のみならず、動物においても合成されるタンパク質である。極度の乾燥にも耐えることができるネムリユスリカは有名な生物である。
ジベレリンの働き
アブシシン酸の働きを抑制し、種子の休眠打破をする。その結果、発芽が促される。種子の発芽プロセスは以下の通りである。
休眠中
- 休眠中はDELLAタンパク質が糊粉層に存在しており、ジベレリン誘導遺伝子の発現を抑制する働きを持つ。
- その結果、アミラーゼの合成を促進させる調節タンパク質が合成されなくなり、アミラーゼ合成が抑制される。
- 糊粉層の糖がアミラーゼによって分解されないと発芽が始まらないため、種子は休眠状態となる。
休眠打破
- 適した水・温度・酸素によって、胚でジベレリンが合成される。
- ジベレリンによってDELLAタンパク質が分解される。
- ジベレリンは糊粉層に移送され、糊粉層でアミラーゼ合成される。アミラーゼは胚乳のデンプンを分解する。
- デンプンの分解によって生成された糖は、胚に吸収される。
- その結果、胚内の浸透圧が高まり、吸水が促進され、発芽する。
DELLAタンパク質の働き
2008年,de LucasらおよびFengらは植物の胚軸伸長を促進する転写因子であるPIFタンパク質がDELLAタンパク質と直接結合することを見いだした。DELLAタンパク質と結合したPIFタンパク質(転写因子)は、DNAとの結合能力が失われ、転写因子として作用しなくなった。このことから、DELLAは転写因子と結合し、そのDNA結合能を阻害することがわかった。
ジベレリンが発現することによって、DELLAタンパク質は以下のような機構で分解される。GA(ジベレリン)はGID1と呼ばれる受容体と結合し、SCFと複合体を形成し、DELLAタンパク質をユビキチン化させる。ユビキチン化とは、真核生物において、ユビキチン(タンパク質)を標的物質に付加することによって分解を促進するシステムである。ユビキチン化されたDELLAタンパク質は分解される。