転写複合体とは
真核生物では、DNAは非常に複雑なクロマチン構造を形成しているため、RNAポリメラーゼが単体で結合することが難しい(原核生物ではRNA単体で転写が開始される)。RNAポリメラーゼをプロモーターに召集し、結合することを助けるタンパク質として基本転写因子が存在する。基本転写因子はいくつかのパーツからできており、さらに介在複合体も合わさって転写複合体を形成する。
基本転写因子
基本転写因子は、転写開始位置上流のプロモーター領域の一部のTATAボックスと呼ばれるDNA配列に結合する。その際に、転写開始点付近のDNA2本鎖が局所的に1本鎖にほどかれ、安定な転写開始複合体を形成する。下画像のRNA polymerase(RNAポリメラーゼ)以外は基本転写因子である。
http://csls-text3.c.u-tokyo.ac.jp/
介在複合体
基本転写因子にさらに、介在複合体(下画像水色)が結合する。そのようにして形成された複合体を転写複合体と呼ぶ。介在複合体は名前の通り、調節領域に結合している調節タンパク質 (下画像青)とうまく結合し、転写ON、OFFの命令を仲介して、RNAポリメラーゼの転写開始や転写速度を調節する働きを持つ。
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エンハンサー・サイレンサー(調節領域)
調節領域には転写を促進させるものと、抑制させるものの2種類がある。転写を促進させる調節領域をエンハンサー、転写を抑制させる調節領域をサイレンサーと呼ぶ。エンハンサーに結合する調節タンパク質はアクチベータ―、サイレンサーに結合する調節タンパク質はリプレッサーと呼ばれる。
リプレッサーの作用
リプレッサーが直接転写複合体に作用することを直接的抑制(下画像下段)と呼ぶ。また、エンハンサーとサイレンサーの領域が重なっていることがあり、リプレッサーが結合することによってアクチベータ―の結合を妨げ、転写を抑制することを競合(下画像上段)と呼ぶ。さらに、リプレッサーがアクチベーターに結合してアクチベーターの機能を停止させることを阻害(下画像中断)と呼ぶ。
介在複合体と調節タンパク質
実際には、調節タンパク質は複数あり(下画像ではオレンジ)、それらが介在複合体に結合している。調節タンパク質による情報が統合されて、転写の開始や転写速度が決定される。なお、調節領域はプロモーター上流にあるとは限らず、下流にある場合もある。