塩の加水分解とは?
塩は水溶液中で加水分解され、酸や塩基に戻ることが知られています。これを塩の加水分解と呼びます。
CH3COONaの加水分解
CH3COONaは酢酸(弱酸)と水酸化ナトリウム(強塩基)の正塩です。この塩は水溶液中では完全に電離しています。
また水も僅かに電離しています。
CH3COO–はH+と結びついてCH3COOHに戻ってしまいます。
水溶液中の[H+]は減少しますが、水のイオン積により、[H+]の減少を補うために水の電離が進み、[OH–]が増加します。
結果、水溶液は塩基性を示します。
両辺にNaを加えると、化学反応式になります。
弱酸であるCH3COOHは殆ど電離しませんが、NaOHはほぼ電離しているため、OH–の濃度が高くなり、水溶液は塩基性となります。
なぜCH3COO–はCH3COOHに戻るの?
CH3COOHは弱電解質であるため、CH3COO–のイオンの状態でいるよりも、CH3COOHの状態でいる方が安定しています。そのため、一部が、水が電離して生じたH+と結合して、CH3COOHになってしまうのです。
一方、CH3COONaのNa+は、強電解質であるNaOH由来のイオンです。Na+はイオンの状態である方が安定しているため、そのまま存在します。
CH3COO–のうちどれくらいが水と反応してCH3COOHに戻るの?
実際に、酢酸から電離したCH3COO–の内、水が電離したH+と結合してCH3COOHになるのは、約1万個に1個の割合ほどです。殆どは、CH3COO–のまま存在しています。
NH4Clの加水分解
NH4Clにおいても上記と同様の反応が起こります。
すると、水の電離が進み、結果としてH+の濃度が高くなり、水溶液は弱酸性となります。
NaClの加水分解は起こらない
NaClも塩ですが、加水分解は起こりません。NaClはNaOHとHCl由来の塩で、どちらも強塩基と強酸です。Na+もCl–もイオンの状態でいた方が安定するため、水とは反応しません。そのため、水溶液は中性を示します。
塩の加水分解まとめ
まとめると、塩を構成していた酸と塩基の組み合わせによって、塩の水溶液の液性は変化します。
- 強酸+強塩基 = 中性
- 弱酸+弱塩基 = 中性
- 弱酸+強塩基 = 塩基性
- 強酸+弱塩基 = 酸性
酸性塩の加水分解とは?
酸性塩とは、塩の中にHが残っている塩のことを指します。酸性塩も加水分解しますが、組み合わせによって水溶液の液性が異なってきます。
酸性塩NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)の加水分解
NaHCO3は、水に溶けるとNa+とHCO3に電離します。また、水も僅かにH+とOH–に電離しています。
Na+はOH–と結合することはありません。しかし、弱酸由来であるHCO3はH+と結合しやすく、一部がH2CO3となります。
この結果、水溶液中からH+の量が減少し、平衡を保つために水がさらに電離するため、結果的にOH–の量がH+よりも多くなり、弱塩基性となります。
どうしてHCO3–はさらに電離しないの?
ここで「HCO3-に残っているHが電離するので、酸性になるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この電離は殆ど起こらず、酸としての性質は極めて弱いことが知られています。それよりも以下の反応が起こる割合が高いです。
結果として、水溶液は塩基性を示します。
酸性塩NaHSO4(硫酸水素ナトリウム)の加水分解
一方、NaHSO4では、NaHCO3とは異なる反応を示します。NaHSO4も同様に電離します。
また水も僅かに電離しています。
Na+は強塩基由来のイオンなので、OH–と結合することはありません。また、HSO4–も強酸由来のイオンであるため、むしろH+を放出する電離が起こります。
結果、水溶液は酸性となります。
塩基性塩では加水分解が起きない
塩基性塩では加水分解が起こりません。これは、塩基性塩が殆ど水に溶けないためです。溶けないので、加水分解は起こりようがありません。
酸性塩・塩基性塩の加水分解まとめ
酸性塩と塩基性塩の加水分解結果をまとめると次のようになります。
- 酸性塩(強塩基+弱酸)⇒ 塩基性
- 酸性塩(強塩基+強酸)⇒ 酸性
- 塩基性塩 ⇒ 加水分解されない