遺伝子とその働き

遺伝子とゲノム

ゲノム

その生物が持つ遺伝情報全て(塩基配列全て)をゲノムと呼ぶ。ゲノムサイズは各生物によって異なっており、人間が一番多いというわけでもない(下図では一番多いが)。

DNA生物種

https://www.yodosha.co.jp/

遺伝子

ゲノムは塩基対すべてを指すが、そのうちで実際に働くのは限られている。実際に遺伝情報として働く塩基対を遺伝子と呼ぶ。真核生物では遺伝子はゲノムの極一部であるが、原核生物ではゲノムの殆どが遺伝子である。下図では、遺伝子領域をピンク、非遺伝子領域を灰色で表現している。

細胞とゲノム

体中の細胞は基本的に同じゲノムを持っている。アフリカツメガエルの核移植実験では、紫外線によって核を破壊した未受精卵に、体細胞の核を移植すると、正常な成体が発生した。

アフリカツメガエル
http://nosumi.exblog.jp/

核移植は顕微鏡下で行われ、技術を要する実験である。

また、同様の方法でクローン羊ドリーも作成された。ドリーは短命だった。
クローン羊

多細胞生物とゲノム

多細胞生物では、すべての細胞が同じゲノムを持っているが、発現する遺伝子が異なる。ハエや蚊の唾腺には、唾腺染色体と呼ばれる巨大な染色体が存在する。唾液染色体にはパフと呼ばれる膨らんだ箇所がいくつかあり、そこでは盛んにmRNAが合成されている。このことから、細胞ではすべての遺伝子が発現してパフを形成しているわけではないことが確認できる。

タンパク質の合成

RNA

DNAはタンパク質の情報が記されている設計図である。DNAを核外に出すことは危険であるので、コピーを核外に出して使用する。DNAのコピーをRNAと呼ぶ。RNAはDNAとほぼ構造は同じであるが、デオキシリボースの代わりにリボースが使用されている。また、チミンの代わりにウラシル(U)が使用されており、2本鎖ではなく1本鎖である。

転写

DNAからタンパク質を作る際には、はじめにDNAのコピーであるRNAを合成する必要がある。DNAの塩基配列を基に、RNAを合成することを転写と呼ぶ。DNAの2本鎖の一部がほどけ、DNAのA、T、G、Cの塩基に、RNAのU、A、C、Gが結合し、1本鎖のRNAが合成される。

RNA
http://biology.unm.edu/

転写は次の動画のようにRNAポリメラーゼによって行われる。

スプライシング

合成されたRNAには、必要な部分と不必要な部分が存在する。不必要な部分を排除し、必要な部分だけを残す作業をスプライシングと呼ぶ。スプライシングを経たRNAはmRNA(メッセンジャーRNA)と呼ばれる。

翻訳

mRNAの情報を基に、タンパク質を合成する過程を翻訳と呼ぶ。まず、mRNAはリボソームに運ばれる。mRNAの3つの塩基(コドン)は1つのアミノ酸を指定し、指定されたアミノ酸をtRNAがリボソームへと運ぶ。運ばれたアミノ酸は結合していき、タンパク質が合成される。

翻訳

http://blog.goo.ne.jp/

動画で見ると次のようになる。mRNAのコドンに合致するtRNAが次々とアミノ酸を運んでくる。

セントラルドグマ

DNAの情報を基にRNAが合成され、RNAの情報を基にタンパク質が合成される。この流れをセントラルドグマと呼ぶ。エヴァンゲリオンでは、最も最下層の中心部分をセントラルドグマと呼んでいる。この生物学用語が由来となっている。

生体内のタンパク質

生体内のタンパク質

生体内でのタンパク質は、酵素や、皮膚や骨の成分、水晶体の成分、筋肉の繊維として用いられている。酵素は化学反応の触媒として働く。触媒とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう。以下に生体内でのタンパク質の例を示す。

リゾチーム

涙や鼻水に含まれる酵素。真性細菌の細胞壁である多糖類を分解する。

リゾチーム

https://pdbj.org/

コラーゲン

骨や皮膚の成分で、細長い繊維である。弾力を生み出す。

コラーゲン

https://www.studyblue.com/

クリスタリン

水晶体の成分である。

クリスタリン

http://www.nature.com/

アクチン

筋肉の成分であり、繊維状である。

アクチン

http://legacy.owensboro.kctcs.edu/

タンパク質の構造

タンパク質はアミノ酸が多数結合してできたものである。

タンパク質http://www.food-kitasato.jp/

 

アミノ酸は、1個の炭素原子にアミノ基カルボキシ基が結合した物質である。

アミノ酸
http://www2.edu.ipa.go.jp/

アミノ酸は全部で20種類あり、側鎖の構造が異なっている。

アミノ酸

http://holoskatou.exblog.jp/

体細胞分裂

体細胞分裂と細胞周期

体細胞分裂は、4つの期に分類することができる。DNA合成準備期(G1期)、DNA合成期(S期)、分裂準備期(G2期)、分裂期(M期)の4つである。G1、S、G2は間期と呼ばれている。M期に入り、細胞分裂を終えたあとは、G1期に戻る。このサイクルを細胞周期と呼ぶ。ヒトの培養細胞では、細胞周期は24時間ほどであり、そのうちS期が約半分を占めている。

分裂期(M期)

分裂期は前期、中期、後期、終期の4つに分類することができる。

前期

前期では、核膜が消失し、染色体が出現する。中心体は2つになる。

体細胞分裂

中期

中期では、染色体が赤道面に並ぶ。また中心体から紡錘糸が伸びて、紡錘体(中心体と染色体が繋がった構造物)を形成する。

体細胞分裂

後期

後期では、染色体が両極へ移動する。

体細胞分裂

終期

終期では、核膜が出現する。動物細胞の場合はくびれが生じて2つに分裂する。植物細胞の場合は、細胞板が形成され、分裂する。

体細胞分裂

実際の様子(GIF画像)

下画像は実際の体細胞分裂の様子である。見事に染色体が両極に移動しているのがわかる。

細胞分裂3

http://giphy.com/

DNA量の変化

間期のS期では、細胞分裂に備えてDNAは合成されて増加する。G2期に入る時にはDNA量は2倍となる。M期を経て体細胞分裂を終えるとDNA量は元の量に戻る。

細胞周期

http://www.shmoop.com/

細胞周期のDNA量の変化をグラフにすると次のようになる。

 

DNA量

http://www.seibutsushi.net/

遺伝子研究の歴史

遺伝子研究の歴史

かつては遺伝物質はDNAではなく、タンパク質であると考えられていた。それは、複雑な遺伝情報を4種類の塩基だけでは記述しきれないと思い込んでいたためであった(タンパク質を構成するアミノ酸は20種類である)。しかし、肺炎双球菌を使ったグリフィスエイブリーの実験、バクテリオファージ大腸菌を使ったハーシーチェイスの実験によって、遺伝子物質はDNAであることが証明された。

遺伝

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グリフィスの実験

グリフィスは肺炎双球菌を用いて実験を行った。肺炎双球菌には病原性を持つS型菌と、非病原性であるR型菌が存在する。S型菌は菌外にカプセルを持っているのが特徴である(下画像)。

肺炎双球菌

http://strep.umin.jp/

加熱殺菌したS型菌と、R型菌を混合すると、R型菌が病原性を獲得した。このことから、S型菌の遺伝物質がR型菌に移動して、R型菌を有毒化したと考えられる。このように遺伝物質導入によって形質が変化することを、形質転換と呼ぶ。

グリフィス

エイブリーの実験

DNA分解酵素でDNAを分解したS型菌をR型菌と混合すると、S型菌は生じなかった。一方、タンパク質分解酵素でタンパク質を分解したS型菌をR型菌と混合すると、S型菌が生じた。このことから、S型菌のDNAが形質転換を引き起こす要因となったことが考えられる。

エイブリー

ハーシーとチェイスの実験

ハーシーとチェイスはバクテリオファージ大腸菌を用いて実験を行った。バクテリオファージは大腸菌に感染するウィルスである。

 

バクテリオファージの殻タンパク質を35S(硫黄原子の同位体)で標識し、DNAを32P(リン原子の同位体)で標識した。ファージを大腸菌に感染させると、菌内でファージが増殖した。菌体内からは35Sではなく、32Pのみが検出された。このことから、DNAが遺伝子の本体であることが明らかとなった。下画像では、赤色が同位体元素である。画像上段ではDNAに同位体Pが、下段では殻タンパク質に同位体Sが使用されている。

DNAの構造

DNAの構成

DNAはデオキシリボ核酸が正式名称である。糖のデオキシリボースに、リン酸塩基が結合している。この糖、リン酸、塩基のユニットをヌクレオチド(下画像)と呼ぶ。

ヌクレオチド
塩基にはアデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類がある。略称はそれぞれ、A、T、G、Cである。
塩基

二重螺旋構造

アデニンはチミンと、グアニンはシトシンと結合する性質を持っており、これを塩基の相補性と呼んでいる。

相補性

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DNAは2本のヌクレオチド鎖が平行に並んでおり、相補的な塩基同士が結合してはしご状になっている。塩基同士は水素結合でゆるく結ばれている。

DNA

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このはしごが螺旋状にねじれている。この構造を二重螺旋構造でと呼ぶ。

DNA1

DNA構造解明への研究

シャルガフは、どの生物においてもアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)がそれぞれ同じ割合で存在することを明らかにした。

シャルガフの実験

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ウィルキンスは、X線による回析を行った。

DNA

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これらの実験を基に、ワトソンクリックは二重螺旋構造を提唱した。