遺伝子をランダムな位置に組み込む
遺伝子をランダムな位置に組み込む方法には、①DNAを受精卵前核に顕微注入する、②ウィルスを利用する、③トランスポゾンを利用するの3種類がある。どの方法においてもランダムな位置に目的遺伝子が導入され、重要な遺伝子などを破壊する可能性ももちろんある。
DNAを受精卵前核に顕微注入する
マウスの遺伝子組み換えを行う場合、受精卵の前核に目的の遺伝子配列を直接注入する。前核とは、受精してから核融合するまでの間に出現する核である。
正常な受精卵には精子由来の雄性前核と、卵子由来の雌性前核の2つの前核が見えます。(左写真) この2つの前核は、受精後22時間程度で融合して1つとなり消えてしまいます。
顕微注入(顕微鏡下で注入)すると、DNA配列が組み込まれることがあり、目的遺伝子を組み込むことができる。しかし、この方法ではどの部位に挿入されたかを制御することはできない。
受精卵の前核内にDNAを顕微注入法で導入する方法は、トランスジェニック(Tg)マウス作製法として一般的であるが、この場合、導入遺伝子の挿入位置とコピー数を制御することは困難である。その結果、導入遺伝子の発現量にばらつきが生じたり、他の遺伝子を潰している恐れもある
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrds/104/0/104_0_116/_article/-char/ja/
そのため、遺伝子組み換えマウスを作る際には、始めにES細胞の組み換えを行ってキメラ化を繰り返すことによって目的遺伝子を持つマウスを作成する。詳しくはこちらのページを参照。
ウィルスを利用する
レトロウィルスには自身の遺伝子を標的細胞に組み込む性質を持つものがある。この性質を利用し、ウィルスに目的遺伝子を導入して、細胞を感染させ、遺伝子を挿入させる方法がある。
DNAを直接注入する場合は前核内に顕微注入する必要があったが、レンチウイルスの場合は、卵細胞外にある囲卵腔という空間に注入すればよく、しかも効率は遥かに高いことが知られている。
トランスポゾンを利用する
トランスポゾンとは自分の複製を他のDNA部位に挿入する性質を持つDNA配列である。ヒトゲノムの中にも多くのトランスポゾンによる複製が含まれている。
特にショウジョウバエの遺伝子組み換えの場合は、トランスポゾンを利用する。トランスポゾンはトランスポゼースと呼ばれる酵素によって移動することができる。トランポゾンにはこの酵素の遺伝子が予め含まれており、トランスポゼースはある特定の塩基配列を認識し、その間を切り取って移動する。
http://researchmap.jp/jo0kc9hfg-17709/
導入したい遺伝子にも「トランスポゼースが認識する特定の塩基配列」と「トランスポゼース遺伝子」を加え、核内に注入することによってトランスポゾンと同じ原理で遺伝子がショウジョウバエゲノムに組み込まれる。
現在では様々な脊椎動物・無脊椎動物において、各動物種への遺伝子導入に適したトランスポゾンが同定されている。
遺伝子を特定の位置に組み込む
遺伝子を特定の位置に組み込みには生物が元来持っている相同組み換えと呼ばれる能力を利用する。相同組み換えは、完全には解明されていないが、塩基配列が非常によく似た(相同)な領域を持つDNA2本が並び、交差し、複雑な過程で再結合するというものである。その際に、DNA二本鎖が切断・分離などをする。このシステムは元々、DNAが損傷した際などに修復するためのものである。
導入したい遺伝子の前後を、目的部位の前後と同じDNA配列で繋ぐと、相同組み換えが起こった際に稀に目的部位と置換される形で挿入されることがある。この方法によって目的部位の遺伝子を破壊するノックアウトや、目的部位の遺伝子にGFP遺伝子を加えるノックインなどをすることができる。ただし、この手法が確立されている生物種はマウスなどの極僅かな生物種である。
下画像(右)は体節を形成する遺伝子をノックアウトされたマウスであり、上手く脊椎を形成できていない。