学習
経験によって行動が変化するとき、その行動を学習と呼ぶ。実際的には、経験によって神経細胞の繋がりや内部物質が変化する現象である。
慣れ
アメフラシでは、水管に継続的に触れると、えらを引っ込める反射が起こりづらくなる。このように閾値以上の刺激を繰り返し与えて、シナプスの伝達効率が低下することを慣れと呼ぶ。アメフラシの場合、感覚ニューロンと運動ニューロンとのシナプスの間に変化が起こることによってこのような現象が起こる。シナプスの変化をシナプス可塑性と呼ぶ。
鋭敏化
慣れの生じた個体のえら以外の場所を触った後に、水管を触れるとえらを引っ込める反射が起こるようになる。これを脱慣れと呼ぶ。この個体の尾に強い刺激を与えると、水管に極小さな刺激を与えただけでえらを大きく引っ込めるようになる。これを鋭敏化と呼ぶ。
鋭敏化の仕組み
水管の感覚ニューロンには介在ニューロンがつながっている。介在ニューロンは尾からの感覚ニューロンともつながっている。この3つのニューロンによって、次のような仕組みで鋭敏化が起こる
- 尾に刺激を与え続けると、感覚ニューロン(尾)から介在ニューロンに信号が伝わる。
- 介在ニューロンはセロトニンを感覚ニューロン(水管)へ放出する。
- 感覚ニューロン(水管)のセロトニン受容体にセロトニンが結合する。
- 感覚ニューロン(水管)のシナプスではcAMPを生産し始める。
- cAMPはK+チャネルを閉じさせ、活動電位が長くなるように作用する。
- 刺激が水管で発生した場合、長時間Ca2+チャネルが開き、活動電位が長く持続する。
- シナプス末端から放出される神経伝達物質の量も増加し、伝達効率が高まり、鋭敏化が起こる。
cAMPはアデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase; アデニレートサイクレース)によってATPから合成される。
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cAMPはタンパク質リン酸化酵素を活性化する。タンパク質リン酸化酵素はイオンチャネル(タンパク質)をリン酸化してイオン透過性を変化させ、神経伝達物質の量を増大させる。この反応は上記の図と同じである。これが短期記憶となる。
さらに刺激がくり返されてcAMP濃度が上がると、タンパク質リン酸化酵素は核に移動し、調節タンパク質をリン酸化する。 調節タンパク質は転写を活性化して、新しいシナプスを形成する遺伝子を発現させる。その結果、合成されたタンパク質によりシナプス結合の数が増し、長期間持続する長期記憶となる。
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条件付け
パブロフの犬の実験として有名である。犬にベルの音を聞かせて餌を与えると、ベルの音を聞くだけで唾液がでるようになったというものである。ある反射を、それとは無関係な刺激(条件刺激)のもとで繰り返すと、条件刺激だけで反射が起こるようになるというものである。
刷り込み
鳥類のひなは孵化して初めて見たものを親だと認識する。このような学習を刷り込みという。刷り込みは孵化して時間が経つにつれて成立しなくなる。この刷り込みが成立するまでの時間を臨界期と呼ぶ。
試行錯誤
ネズミを迷路に入れておくと、回数を重ねるごとに最短ルートを通るようになる。このように繰り返しによって誤りが減ることを試行錯誤という。
知能行動
未経験の物事に対しても、経験したものを基にして考え、対応できることを知能行動という。
カラスは鳥類であるが優れた知能行動を行うことで知られている。
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学習行動と臨界期
学習行動の中には、ある一定の時期を過ぎると学習できなくなるものも存在する。例えば、キンカチョウのさえずりは、親の音声パターンを生後20~65日の間に聞いて記憶し(感覚学習)、その後生後30~90日の間に練習(運動学習)することによって習得される。
このようにある現象や反応が起こるか起こらないかが決まる時期を臨界期と呼ぶ。この期間を過ぎるとキンカチョウはさえずりを習得できない。